八七六〇時間の忘却

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「名前は無いのか?」 「ああ、無い」 ボソリと適当に答えた。 前にも同じ様な、やり取りをした。 あの時、俺が「あんたと会うのは、今日が最初で最後だ」って思ってたこと、あんた知ってたか? 笑えるよな、最初で最後じゃなかった。 「じゃあ、俺は何て呼んでた?」 ああ、やっぱり、違うのか……。 すまない、試したんだ。 『無い?ああ、まだ無いのか。名前、やっぱ猫で良いんじゃないか?』という返答を俺は期待してしまった。 「……ニャン太」 望んでしまった。 「ニャン太か……、俺らしいな」 パンケーキを見つめたままの俺にアイザックの視線が刺さる。 鋭いものでは無く、きっと笑みを含んだ柔らかいものだ。 今、あんたの顔を見てしまったら、何かが終わってしまう気がする。 同じ顔、同じ声、同じ雰囲気。 それでも、何かが違う。 アイザックは、また同じ様に俺に笑い掛けてくれるだろうか? また同じ様に、名を呼んでくれるだろうか?
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