八七六〇時間の忘却

13/17
前へ
/269ページ
次へ
手を伸ばせば届く距離に居るが、きっと、あんたは俺に手を伸ばしたりなんてしないんだろう。 触れる必要なんて、無いのだから。 もう、名前を呼ぶ必要なんて、無いのだから。 「それで、俺は君をどうやって拾った?」 また君と言う。 何故、拾ったのが前提なのだろうか。 「君と言うな。あんたは俺を駅前で拾って、自分の家に連れて帰ったんだ」 お前は、今日からうちの子になるんだよ、なんてサラッと言って退けて。 一口も食べていない、目の前のパンケーキが徐々に冷めていく。 ナイフで不器用に千切れば、その現象は早くなる。 まるで、感情が途切れて、冷めていく様に。 「じゃあ、本当に一緒に暮らしてたんだな」 「ああ、あんたが記憶を失くす直前まで一緒に居た」 こんなことを言えば、アイザックに色んなことを問われると思った。 何故、記憶を失くした後、お前は居なかったのか。 何故、自分は事故に遭ったのか。 そう問われると思った。
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!

462人が本棚に入れています
本棚に追加