八七六〇時間の忘却

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思い出して欲しくないと望んだならば、それはアイザックとの別れを意味する。 そばに居る必要がないからだ。 あんたの中に俺は居ない。 俺のことを愛さないあんたは、俺を好きにはならない。 ────本当は思い出して欲しい。 「時間が止まってしまったみたいなんだ。一年前から、ずっと」 俺の問いにアイザックは答えない。 人の話は聞かないのか、前みたいに。 窓の外を見つめる青い瞳は、きっと過去を見ている。 俺の存在しない過去を。 ────本当は一緒に居たい。 「我儘を言って、すまない」 そう言って、アイザックは静かに席を立った。 俺があんたの中に居ない証拠だ。 あんたは「すまない」と言う人間では無かった。 ほら、さよならだ。 あの日のように、アイザックは俺の横を通り過ぎ…………ること無く「ニャン太、一緒に帰ろう」と言った。 その言い方は、俺を知っているアイザックにとても似ていた。 時折、こうやって回路が奇跡的に繋がったように、俺に前の姿を見せてくれるのだろうか。 「あんた、人の話聞いてなかったのか?」 とても苦しい。 人の話、聞けよ。 前のアイザックと違うんだって、主張しろよ。 「何も言われてない。尋ねられただけだ」 真横に立ったアイザックの存在がデカい。 顔を見ることは出来ないが、きっと、今はあの日のように、アイザックの顔をして笑ってる。 このアイザックのような人間は、悪戯な言葉を発しながら、悪戯な笑みを顔に貼り付けているのだ。
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