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思い出して欲しくないと望んだならば、それはアイザックとの別れを意味する。
そばに居る必要がないからだ。
あんたの中に俺は居ない。
俺のことを愛さないあんたは、俺を好きにはならない。
────本当は思い出して欲しい。
「時間が止まってしまったみたいなんだ。一年前から、ずっと」
俺の問いにアイザックは答えない。
人の話は聞かないのか、前みたいに。
窓の外を見つめる青い瞳は、きっと過去を見ている。
俺の存在しない過去を。
────本当は一緒に居たい。
「我儘を言って、すまない」
そう言って、アイザックは静かに席を立った。
俺があんたの中に居ない証拠だ。
あんたは「すまない」と言う人間では無かった。
ほら、さよならだ。
あの日のように、アイザックは俺の横を通り過ぎ…………ること無く「ニャン太、一緒に帰ろう」と言った。
その言い方は、俺を知っているアイザックにとても似ていた。
時折、こうやって回路が奇跡的に繋がったように、俺に前の姿を見せてくれるのだろうか。
「あんた、人の話聞いてなかったのか?」
とても苦しい。
人の話、聞けよ。
前のアイザックと違うんだって、主張しろよ。
「何も言われてない。尋ねられただけだ」
真横に立ったアイザックの存在がデカい。
顔を見ることは出来ないが、きっと、今はあの日のように、アイザックの顔をして笑ってる。
このアイザックのような人間は、悪戯な言葉を発しながら、悪戯な笑みを顔に貼り付けているのだ。
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