八七六〇時間の忘却

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「屁理屈だ、そんなもん」 「頼むよ。今の俺は、どれが本当の自分か分からないんだ。前の自分とは何かが違う。不安なんだよ」 欠けた記憶の中に、大切な何かでもあったのだろうか。 俺では無いことは確かだ。 一週間と何日か、しかない記憶。 そんなものに価値など無い。 「君に出会えて良かった。ホッとしたよ」 嘘を吐け、あんたを知る人間なんて沢山居るだろう? 美樹さんだって居るじゃねぇか。 自分には関係ない、と俺は冷えたパンケーキを口いっぱいに頬張った。 アイザックが俺の横から退く気配は無い。 俺を試すのは、やめろ。 「……あんた、カウンセリグルームはどうした?」 パンケーキを飲み込み、気になったことを素直に口にした。 「ん?ああ、残念ながら、休業中だ。俺がこんな状態じゃ、どうにもならないからな」 自分から聞いておいて難だが、アイザックの返答は、とても衝撃的だった。 このまま記憶が戻らなければ、奴はどうなるのか。
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