八七六〇時間の忘却

17/17
457人が本棚に入れています
本棚に追加
/269ページ
俺の頭の中で灰色の休業中という文字が失業中に変わる。 「駄目だ……」 無意識に俺は呟いていた。 さすがに、それは酷過ぎる。 アイザックがストーカー犯だろうと、俺の所為で、そこまで人生をボロボロにしてはならない。 俺は、あんたの破滅を願っている訳じゃないんだよ。 「アイザックさん、帰ろう」 「え?」 「気が変わったんだよ。また俺の気が変わる前に帰ろう」 一気にアイスレモンティーを飲み干して、俺は立ち上がり、アイザックより先にレジに向かった。 あの日のお返しだ。 「ありがとうございました」 店員の声を背に、俺は店の外に出た。 まだ微かに春の匂いがする。 あの日のことを思い出すと、少し笑える。 俺だけが覚えている、あの日を────。
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!