一時間の真相

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いや、今日だけかもしれないな。 もしかしたら、気を遣っているのかもしれない。 俺が帰ってくるのは、いまのアイザックにとって初めてのことなのだから。 テーブルに着き、俺はアイザックに「次は待たなくて良いから」と言った。 しかし、そう言っておきながら、親子丼を食べ始めた時には「こうやって誰かと食べるのって良いよな」と呟く。 俺の言葉であり、俺の言葉ではない。 前にアイザックが言った言葉だが、俺の真正面に座る当の本人は「そうか?」としか言わない。 過去を思い出しもしないし、まるで、俺を嫌っているかのようだ。 あんたは誰なんだ?と幾度と無く問いたくなる。 何度尋ねても答えは変わらないというのに。 「美味いか?」 恐る恐ると言った様子でアイザックが尋ねてくる。 アイザックは料理が上手い。 それはずっと変わらない。 だから、この親子丼も美味い筈。 でも…… 「美味い」 味がしねぇよ────。
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