七二時間の沈黙

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窓のカーテンを完全に閉め切った部屋。 だが、薄い布は昼間の日差しに負けて、この空間は暗闇にはなりきれない。 天井に穴を空け、縄を吊るしてから三日が経った。 俺はここに存在しているが、中身は存在していないみたいだ。 思考だけが働き続ける。 一日中、首を吊る縄を見ながら、何をするでも無く、ずっと。 自分の中に生み出されるのは、罪悪感と後悔の念だけ。 ジワジワと負の感情が増し続け、縄を見つめ続けた三日目の今日、ついに俺は行動を起こした。 天井に吊るした縄の真下に椅子を置き、その上に上って首に縄を掛ける。 ─────これで最後、これで終わり。 そう思った時だった。 突然、タイミングを見計らったかのように、電話が鳴り出した。 家の電話が鳴るなんて、何年振りか。 不覚にも、その音にハッと我に返り、俺は縄を首から外して椅子から下りてしまった。 せっかく死ぬ気になっていたのに、今の気持ちでは死ぬことが出来ない。 不快な音で鳴り続ける電話。 相手は一体、誰なのか。
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