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「どうしたの?さとちゃん?……約束したじゃない。一緒に卒業式出ようって」
……柚子は確信せざる得なかった。あの日、絶対に何かあったのだ。一緒に卒業式に出るはずだった日に。でなければ、心結がこんな状態になるはずがない。
……卒業式、心結の名前は呼ばれなかった。聞いても誰も何も答えてはくれなかった。あれから心結の家にもいったが、急病だからと会えないまま……。
そしてあの日は、心結がいないことでもう一人の親友が自殺した……。"芹沢奈生(せりざわ なお)"。いつも一緒にいたはずなのに、彼女の抱えているものを柚子は知らなかった。奈生はあまりに明るい少女だったから……。
多分今、今の状況を受け入れようとする気持ちと受け入れられない気持ちが心結を狂わせている。……誰が彼女をこんな風にしたと、彼女は憤りを感じていた。もう会えないと思っていた親友、会えた心結はあのときのまま。………その心結の心は壊れていた。
だが、今なら守れる。教師となった今なら。
「……泣いてたようだけど、何があった?」
気がつかないふりをした。でなければ、また居なくなって……消えてしまいそうで。
「……優しくされたのが嬉しくて……苦しかっただけ」
佐藤は嫌な予感がしたが、純粋さの変わらない心結には笑っていて欲しかった。
「おまえは……やっぱり変わらないな」
だから、頭を撫でる。あの頃と同じように。嬉しそうに撫でられる心結が心底可愛くて。
奈生がいないことを柚子は告げられない。今の心結にはまだ、話せない。
しかし、いづれ話さなくてはならない。心結は奈生とも仲が良かったから。
これ以上心結を混乱させたくない気持ちと裏腹に、真実をどう告げるべきか……。
(おまえまでいなくなってくれるなよ……?)
柚子の切なる願いは叶えられない。残酷な現実は既にカウントダウンを始めているのだから。
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