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話題を変えるように明るい声を出す
「そういえば、冬馬って好きな人いるの?」
「えっ?まぁ…」
面食らった顔をして、あやふやな返事をした。
「よしのは?」
「いないよ…いるわけないじゃん。冬馬以外の男子と何の接点もないもん」
「ふ~ん」
その時、灰色の厚い雲に水銀の様な遠雷が細く光った。
私は興味深げにその金の光糸を見上げた
「やばい、一雨きそう」
急かすように彼が言う。
屋根のある所へ歩き出す
私は履きなれない靴のせいで上手く歩けないから、なかなか冬馬に追いつけないし、かかとが擦れてじんじんと痛みだす。
もしも少女漫画に出てくるような男の子ならこんなときは気がついて歩幅を合わせてくれたりするんだろう。それはきっと一般的な女の子からしたら理想なんだと思うけど、私はそんな気が回らない彼に安心する。
もしも、冬馬がそんなことを器用にできるようになったらあっという間に世間の女の子は彼の良さに気がついて好きになってしまうだろう。
そして、私はますます置いてけぼりになってしまう。
だから、今のまま。
不器用なままでいてほしい。
「冬馬、歩くの早すぎ」
「俺、足長いから……」
「何それ?私の足が短いって言いたいの?」
「そんなこと言ってないじゃん。思ってたけど……」
「はぁ!?」
そんなバカなやりとりをずっと続けていたい。
「しょうがないヤツ!つかまれば?」
彼は足を止めて腕を差し出す。
「いいよ!カップルみたいじゃん。うえぇ~」
「あぶね~じゃん、そんな靴はいてくっから。ほら、早く」
「……」
汚いものでもつまむように彼の腕のダウンジャケットを指先でつまむ。
「何それ?」
「……」
私にとっては指先で触れるのも精一杯で心臓はうるさいし、顔は熱いのに……
もしも私がまどかちゃんみたいな女の子なら冬馬はこんな風に腕を差し出したりは出来ないはずだ。
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