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花が咲く季節になると通学路を外れてその道を通り帰ってきた。
温かい陽射しといつもより人が多くなる道沿いを、私は上を見上げたままゆっくり歩く。
「よしの、歩くのおせーよ」
「あっ、うん、でも……」
ひとひら、花びらが舞い落ちてまだ新しいランドセルに積もった。
会話の途中で押し黙った私にしびれを切らし彼が口を開く
「でも?なんだよ?」
「えっと……綺麗すぎて何て言おうと思ったのか忘れた」
「……」
桜の花びらの切れ間から見える蒼々とした空と河川敷には菜の花が広がっている。
桃色、蒼色、黄色、色の洪水。
まさにカラフル。
「こんなに綺麗なんだからずっと咲いてればいいのに……」
口をついてでた独り言に相棒がかえす。
「バーカ、そんなの人間様の都合だろう。桜には桜の都合があんだよ」
「……」
情緒のかけらもないことを言う彼は幼馴染の冬馬だ。
同じマンションに住んでいて、母親同士も仲がいい。
「それより、お前の顔おもしれ」
口を半開きにして桜を見上げる私の顔を指さして笑う。
あまりに大袈裟に笑うから恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
子供の頃の私は何でもすぐ顔に出て、ころころと表情が変わり、思ったことはすぐに口にした。
それがどれだけ幸せな事なのかをこの時はまだ知らなかった。
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