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サキは救急搬送されたが、いつまで経っても意識が戻らなかった。
原因は不明。
ただ眠っているのだという。
後日、サキの両親は何度もその時のことを皇輝に聞いたそうだ。
スコップが頭に当たらなかったか。
叩いたりしなかったか。
皇輝は、聞かれるたびに首を振り、ぼく知らないと繰り返したらしい。
皇輝の母は、この時点では息子の言葉を信じていた。叩かれたりスコップが強く当たったりしたなら、診察した医師が気づいたはずだと考えていた為でもある。
だがサキの母親は・・・。
ある日の幼稚園からの帰り道、サキの母親が恐ろしい形相で立っていた。
皇輝も、あの時の恐ろしさだけは覚えている。
サキの母親は、血走った目を見開き、石さえ噛み砕きそうな力で歯を食いしばって立っていた。
「ウチの子に何をしたの!」
甲高い声で責められ、皇輝はすくみ上った。
「あんたのせいに決まってる! あの子、あれからずっと目を覚まさなくて眠ってるっていうのよ! ねえ、サキちゃんに何をしたの? 原因が分からないって言われたんだから! ウチの子に何をしたのよおっ!!」
目覚めない娘の看病に心身ともに参っていたらしく、サキの母親は「なんでよ、なんでよ」と繰り返しながら路上にへたり込み、後を追ってきた夫が抱えるようにして連れ帰った。
それが始まりだった。
最初の犠牲者サキのことは、その母親に責められたこと以外には覚えていない。
だが皇輝が小学校にあがった後に起きたことは、すべて覚えている。
目の前で突然、人が眠ってしまうのだ。
何の前触れもなく、くたりと全身の力が抜けたように倒れこむ。
すくんで動けない皇輝の足元に横たわる。
ー まるで皇輝に呪われたかのように。
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