一章 終わりの春

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その春のうちに一家で田舎へ引っ越した。 しかし田舎はよそ者が目立つ。 他人の家の事情を探りたがる隣人達のせいで、不登校の皇輝の噂に尾ひれがつき、精神を病んでいた母は耐え切れず、結局一年でまた引っ越すはめになった。 次は母方の祖父が暮らす家に同居させてもらう予定だったらしい。 だが父が、まとめた荷物を持って行方をくらました。 母は、皇輝だけを祖父に預けると、パパを捜してくるからと言って出て行った。 去り際に、くしゃくしゃと皇輝の頭を撫でてくれたが、母がもう何ヶ月も前から皇輝の目を見ようとしないことには気付いていた。 あの最後の日も。 祖父と皇輝が見つめる中、踵を返した母は一度も振り返らなかった。 そして一度も・・・戻らなかった。
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