のりたまこ②

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「きゃっ!?」  逃げる様に走り出した私は、勢い余って何かにぶつかってしまった。 「おっと……大丈夫ですか?」  倒れそうになった私を、黒い人影が優しく包み込む。 「あっ……ありがとうござ……!?」  衝撃でクラクラしていた視界に、ぼんやりと写り込む優しい微笑み。それは先ほどのイケメンとは違った、ミステリアスな印象を受けるイケメンだった。  黒を基調とした清潔感溢れる服装。それでいてネコの様な優しい笑顔。 「あっ……あの……その……」 「どうしました? 何処か痛むのですか?」 「結婚して下さい!」  ……  ……  しまった! 本能のままにプロポーズしてしまった! 王子に抱きかかえられ、プロポーズをされてキスへと展開する妄想が口から飛び出た!  駄目よ、玉子! この方とは、出会って10秒しか経って無いわ!  「ふっ……面白いお嬢さんだ」  イケメンは私の体を優しく起こし、追い打ちで屈託の無い笑顔のビームを浴びせてきた。  ……もう駄目。お父さん、お母さん……来年には初孫の顔が見せられそうです。 「私の名前は丹一。君は?」 「えっと、その……恥ずかしいのですが……のり……たまこです……」  こんな優しい人なら、私の名前で笑わないはず……  顔を赤らめて俯き、ゆっくりとイケメンの表情を確認した。  すると、予想に反した険しい表情のイケメンになっている。まるで、獲物を捕らえる様な眼差しに、全てを支配されてしまいそうだ。  ……  ……  ……これはこれで問題無いわね。だってイケメンだもの。 「……のりた祭りを知っているのか?」 「えっ? 祭り?」  口調まで変わってる。新たな感覚が体を襲い、ゾクゾクとした。 「何も知らないのか? 偶然にしては……」 「あっ、叔父さん……タッくんって言うクリエーターなら何か知ってるかも」 「タッくん? ……ナンバーシックスが来てるのか!?」 「ナンバーシックス?」  一瞬目を離した隙に、忍者の如くイケメンは消えていた。 「あれっ? 丹一さーん!」  突然消えてしまったイケメンを探して歩き出す。  その先には『似顔絵書きます 画伯』という看板を掲げたイベントブースがあった。
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