のりたまこ④

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「師匠とか呼ばれていたイケメン……何処行っちゃったのよ」  当ても無く走り回っていると、グランドピアノが視界に入った。 「美しい音色ね。どんな人が演奏して……はうあ!?」  ……天使なの!?  美しい音色を奏でるイケメンの演奏者が、天使の容姿で悪魔の如く魅了してくる。  そう言えば、叔父さんに聞いた事があるわ。レグバっていう悪魔と契約すると、天才的な音楽の才能を手にする……つまり、この人は悪魔と契約してしまった堕天使!?   天使が下界に居るはずは無い……きっと私に会うために、堕天使になっちゃったのよ。  でも駄目よ、玉子! 住む世界が違い過ぎるわ! 勿体無いけど、ここはスルーして……  ……あれっ? 急にピアノの演奏が止まった。 「どうされました?」  しまった! イケメンパワーに吸い寄せられて、気付かない内に50センチの距離まで近づいていた! 「あっ、その、綺麗な音色だなって……」 「有難う御座います」  堕天使が魅惑のスマイルを私に向ける。このままでは、私の心を堕天使に奪われて……  ……  ……  ……それもありね。イケメンだし、優しそうだし、悪魔に魅入られても問題無いわ。って言うより、既に私の心はあなたのものよ! 「私は狼歩と言います。何かリクエストがあれば弾かせて頂きますよ」  チャンス到来! この会話の流れに乗って告白するのよ! 「あの……すっ、すっ……すと……」  堕天使のイケメンスマイルに緊張して声が出ない。 「すと? ……ストラヴィンスキーですか? では、代表曲の一つ、火の鳥は如何でしょう? バリエーションも豊富にあり……」  失敗した! 好きですって言おうとしたのに、何処の国の人かすら分からない名前が出てきた! でも諦めちゃ駄目よ。火の鳥だか伝説の鳥だか知らないけど、あなたは幸せの青い鳥よ! 「あの……聞いてますか?」  ……  ……  いつの間にか、30センチの距離に堕天使がいた。 「はうあ!!!」  驚き過ぎて体が飛び跳ねる。  その拍子にバランス崩して、グランドピアノに後頭部を強打した。 「大丈夫ですか!?」  薄れゆく意識の中、イケメンに抱きかかえられた温もりを感じる。  こうして私は、笑顔のまま気絶した。
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