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「師匠とか呼ばれていたイケメン……何処行っちゃったのよ」
当ても無く走り回っていると、グランドピアノが視界に入った。
「美しい音色ね。どんな人が演奏して……はうあ!?」
……天使なの!?
美しい音色を奏でるイケメンの演奏者が、天使の容姿で悪魔の如く魅了してくる。
そう言えば、叔父さんに聞いた事があるわ。レグバっていう悪魔と契約すると、天才的な音楽の才能を手にする……つまり、この人は悪魔と契約してしまった堕天使!?
天使が下界に居るはずは無い……きっと私に会うために、堕天使になっちゃったのよ。
でも駄目よ、玉子! 住む世界が違い過ぎるわ! 勿体無いけど、ここはスルーして……
……あれっ? 急にピアノの演奏が止まった。
「どうされました?」
しまった! イケメンパワーに吸い寄せられて、気付かない内に50センチの距離まで近づいていた!
「あっ、その、綺麗な音色だなって……」
「有難う御座います」
堕天使が魅惑のスマイルを私に向ける。このままでは、私の心を堕天使に奪われて……
……
……
……それもありね。イケメンだし、優しそうだし、悪魔に魅入られても問題無いわ。って言うより、既に私の心はあなたのものよ!
「私は狼歩と言います。何かリクエストがあれば弾かせて頂きますよ」
チャンス到来! この会話の流れに乗って告白するのよ!
「あの……すっ、すっ……すと……」
堕天使のイケメンスマイルに緊張して声が出ない。
「すと? ……ストラヴィンスキーですか? では、代表曲の一つ、火の鳥は如何でしょう? バリエーションも豊富にあり……」
失敗した! 好きですって言おうとしたのに、何処の国の人かすら分からない名前が出てきた! でも諦めちゃ駄目よ。火の鳥だか伝説の鳥だか知らないけど、あなたは幸せの青い鳥よ!
「あの……聞いてますか?」
……
……
いつの間にか、30センチの距離に堕天使がいた。
「はうあ!!!」
驚き過ぎて体が飛び跳ねる。
その拍子にバランス崩して、グランドピアノに後頭部を強打した。
「大丈夫ですか!?」
薄れゆく意識の中、イケメンに抱きかかえられた温もりを感じる。
こうして私は、笑顔のまま気絶した。
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