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「あのさぁ、みんなたかがバレンタイン如きに騒ぎすぎじゃない? 浮かれすぎじゃない? バカなの? みんなバカなの? チョコレート貰ってそんなに嬉しい? 買えるよ? 今の時代チョコなんて十円あれば簡単に買えるよ? それなのにわざわざこんな特設コーナーまで作ってさぁ。街ん中ちょっと歩けばバレンタインソングばっかだし。ウザくない? いい加減ウザくない? てかそのせいで頭からその歌が離れないんだけど」
拝殿の中。
白い神御衣に身を包んだ女が、黙っていればそれなりに美しい顔をこれでもかというほど不機嫌に歪めて、心の毒を次々と吐き出していく。
「女はウキウキ、男はソワソワ。あーあーあーバッカじゃないの? 見てるこっちは反吐が出るっつーの! だいたいね、バレンタインに女から男にチョコ渡す文化なんて日本だけだから。他の国では男が女に薔薇の花とか渡すんだからね。チョコレート渡すなんて製菓業界の作った偽物の文化なのよ。本命、義理、友達、自分チョコ然り。それに気付かずまんまと踊らされるなんて滑稽としか言い様がないわ。救いようのないバカね日本人って。てか何これ美味っ! やっぱベルギーのチョコは格が違うわぁ~」
「あんたも見事に踊らされてますけどね。どこで買ってきたんですかその高級チョコ」
女は艶々と輝くチョコレートを頬張りながら続ける。
「ていうかさ、バレンタインデーってバレンタインさんが死んだ日なわけじゃん? それを祭りみたいに騒ぐなんて失礼すぎない? 人が死んだ日に何自分だけ幸せになろうとしてんの図々しい!! バレンタインさんに謝れひれ伏せ土下座しろ!!」
「とりあえず貴方は今すぐ日本国民と製菓業界に謝って下さい。それと仕事しろ」
「うるっさいわね! 言われなくてもちゃんとやるわよ!」
部下の男に注意され、彼女は不貞腐れたようにゴロリと床に横になる。
その様子にすっかり慣れてしまった部下の男は、わざとらしく大きな溜め息をついた。
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