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月の光が、闇に染まる木々の間を点々と降り注ぐ。
そんな幻想的な景色の中…俺は自宅に現れたカジの弟子狼、ハルに案内されるまま、彼の大きな背に跨がり裏山を疾走していた。
かなりの速さだが、それにザクロも自身の翼をはためかせ、しっかりと後ろからついて来る。
そして俺は風を受けながらハルが先刻話していた事を思い出し、確認する為に問いかけた。
「一連の犯人は女朗蜘蛛(じょろうぐも)って言ってたよな?」
「はい」
「正直、カジ一人で倒せない相手じゃないと思うんだけど」
女朗蜘蛛とは、上半身が女性で下半身が蜘蛛の妖だ。
いち妖に過ぎないソイツが、ここまで脅威になるとは考えにくい。
その問いに対し、ハルは足を止める事なく返答する。
「…通常であれば。ですがアイツは山の妖達を食い荒らしては吸収し、自らの妖力を高めたのです。その力は恐らく、カジ様にも劣らない」
カジは狗賓の中でも高位だと聞いている。
それに劣らないとなると、かなりの苦戦を強いるかもしれない。
するとハルは鼻を引くつかせ、何かの臭いに気づいたのか、険しい表情で舌打ちする。
「チッ、出迎えが来たようです」
「!」
「え、うわ!」
その直後、前方から人間の腰程の高さのある数十匹以上の蜘蛛が、所かしこから飛びかかって来た。
それにザクロは驚きつつも何とか交わし、ハルも器用にかいくぐる。
「ザクロ、無事か?!」
「大丈夫!けどコレ、片っ端から相手するのはちょっと厳しくない?!」
「いえ、相手は不要です!彼等は所詮紛い者…本体を倒せば消える筈。ですからアキ殿…今から本気で撒くので、振り落とされないようしっかり掴まって。ザクロ殿も私から離れないで下さい!」
「分かった…!」
「オッケー!」
俺達の返事を聞き取ったハルは更に姿勢を低くし、一気に速度を上げる。
その軽い身のこなしはまるで疾風の如く次々と蜘蛛の攻撃を交わし、時折飛びかかってくるヤツをモノともせず噛み千切っていく。
そしてしばらくすると大群は突然辺りに散り、束となった蜘蛛の糸が大量に張り巡らされる山の際奥へと差し掛かる。
そこで俺の視界に入ったのは、蜘蛛の糸に縛り上げられ、木に張り付けられた傷だらけの黒い狼…カジの姿だった。
心が一気にざわつく。
「カジ!!」
「…っ…アキ、来るな!」
「!」
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