12 喧嘩

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杉本さんと私は、東京駅で買った駅弁を広げながら、軽いおしゃべりをする。 杉本さんはオーソドックスな幕の内弁当。 私は野菜弁当。肉も魚も入っていないのにボリュームたっぷりのお得な弁当だ。 滝沢麗とか浩平のことを考えたくなかった私には、たわいもないひと時がとても心地よかった。 優しい時間に私は少しずつ癒されていく。 杉本さんは眩しそうに私を見て照れたような呟く。 「気張らしになってたら良いんですけど」 「うん。……おかげさまで。今日は本当にありがとう」 私はお礼を言った。 もう浩平のことは忘れてしまおう。 私は、浩平と付き合い始めてから、チャータ便とか目玉の飛び出るほど高いオープンカーとかそんなものに惑わされていたばっかりだったから、すっかり忘れていたけど、こういうほのぼのとした幸せも世の中には存在していたのだった。 田舎道を走る電車の車窓から、ゆるりとした風を受けながら駅弁を広げる人生…… 刺激には欠けるかもしれないけど、心穏やかに毎日を過ごす。 見知らぬ女と歩いている浩平を見かけて胃がキリキリする、なんてこととは無縁の人生。 嫉妬と涙とは無縁の人生。 電車を降りてから、20分ほど歩くと、へんぴなところに、突然昭和モダンなカフェが現れた。
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