妄想クリームパイ・吉本真悠子の場合

3/4
前へ
/83ページ
次へ
いや、殺すって。 いくら心の中でも流石に殺しちゃうのは物騒じゃない? でも妄想するのは自由だから。 せめて私は妄想する。 例えばお笑い芸人がやっていたアレだ。 先輩に、クリームパイを投げてみる。 綺麗にメイクされている先輩の顔が、白いクリームでぐちゃぐちゃになって。 一瞬、先輩の動きが止まって、目の回りに付いたクリームを手で拭う。そんな妄想。 思わずむふっと笑いだしそうになって、慌てて現実に戻ると、先輩は私をチロリと睨み付けた。 「一生懸命やってるのか知んないけど」と続いた先輩の言葉に、否定の色が滲んでいる。 「仕事しながら『もっと効率的にしよう』とか思わなのかしら。何にも考えずに仕事してる訳じゃないでしょ?」 「ないでしょ?」って言いながら『おまえは何にも考えずに仕事してる』と匂わす先輩に、口で勝てる気はしない。 言い返したりなんかしたら終わる話が永遠に終わらなくなるから絶対にしない。 「はい、はい」と、ひたすら肯定しまくりながら、私はひたすら妄想でクリームパイを投げつけた。 クリームパイまみれの先輩(あくまでも私の妄想)の話がやっと終わって自分の席に戻ったとき。 隣の席の高岡奏史(たかおかそうし)が、キャスター付きの椅子をコロコロと近づけてきた。 「また妄想してたろ?」
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

188人が本棚に入れています
本棚に追加