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「見てたんだ」
高岡奏史は、私と同期。
そしてなぜかエスパーな男。
要領のいいタイプの彼には、私の考えていることなんかお見通しみたいだ。
ちなみに私は、マイペースで、人の気持ちに鈍くて、要領も悪い。
「あれは『見えた』んだよ。つか、この部署みんな見えるだろ。先輩もわざとらしい。おまえよく怒んないな」
「うーん、誰かに怒ることあんまりないかも」
「ハハ、才能かもなある意味」
確かに、私は滅多に怒ったりしないかもしれない。妄想好きでおっとりしてるのもあるけど。
自己肯定感が低いのだと思う。
こう見えたって、自分の不器用さ加減に悩んだりもしたんだ。でも人には向き不向きってもんがある。
いつも怒られて落ち込んでいた私に『そんな奴は心の中でぶっ殺しちゃえばいい』なんて物騒発言したのは彼だ。
「で、今日はどんな妄想?」
「クリームパイを投げてみた」
「へぇー、だから、顔がむふっってなってたんだな」
高岡がニヤリと笑う。
やっぱりエスパーだこいつ。
「まあ先輩も、言うほど効率的じゃないな」
「何が?」
「おまえをどんだけ説教しても時間のムダだってこと。って、おっと時間」
ぱふっと、頭に、彼の大きな手がのった。
びっくりして見上げると、くしゃりと私の頭を撫でた高岡は「がんばれよ」とヒラヒラと手を振って外回りに出掛けて行った。なんか爽やか過ぎてムカつくなあ。
でも、ちょっと気持ちが軽くなった。
さて、仕事しますか。
そういえば彼は、妄想なんかするのだろうか?
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