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彼女が席に戻ったとき、俺はキャスター付きの椅子を転がして近付いた。
「また妄想してたろ?」
「見てたんだ」
吉本の事ならいつでも見てる。
「あれは『見えた』んだよ。つか、この部署みんな見えるだろ。先輩もわざとらしい。おまえよく怒んないな」
「うーん、誰かに怒ることあんまりないかも」
「ハハ、才能かもなある意味」
吉本の呑気なところは好きだけど、そろそろ欲がでてきたかも。
俺の気持ちに、気付いて。
「で、今日はどんな妄想?」
「クリームパイを投げてみた」
「へぇー、だから、顔がむふっってなってたんだな」
クリームパイ、ね。
俺だったら、そのクリームを指先に掬って。おまえの唇に突き付けてやりたいんだけど。
指ごと、くわえさせて、口の中かき回してやりたいんだけど。
「真悠子」って名前呼びながら、その白い首筋にクリーム付けて、一緒に食べてしまいたいんだけど。
なんて、言える筈もなく。
「まあ先輩も、言うほど効率的じゃないな」
「何が?」
「おまえをどんだけ説教しても時間のムダだってこと。って、おっと時間」
たまらなくて、吉本の頭に手をのせたのは、俺の欲が溢れたからで。
びっくりして上目遣いの吉本が一層たまらなくて、くしゃりと頭を撫でた。
「がんばれよ」
さて、仕事しますか。
早く終わらせて、飲みに誘って。
早く気持ちを伝えなきゃ。
俺の妄想が溢れて止まらなくなる前に。
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