妄想クリームパイ・高岡奏史の場合

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*** 彼女が席に戻ったとき、俺はキャスター付きの椅子を転がして近付いた。 「また妄想してたろ?」 「見てたんだ」 吉本の事ならいつでも見てる。 「あれは『見えた』んだよ。つか、この部署みんな見えるだろ。先輩もわざとらしい。おまえよく怒んないな」 「うーん、誰かに怒ることあんまりないかも」 「ハハ、才能かもなある意味」 吉本の呑気なところは好きだけど、そろそろ欲がでてきたかも。 俺の気持ちに、気付いて。 「で、今日はどんな妄想?」 「クリームパイを投げてみた」 「へぇー、だから、顔がむふっってなってたんだな」 クリームパイ、ね。 俺だったら、そのクリームを指先に掬って。おまえの唇に突き付けてやりたいんだけど。 指ごと、くわえさせて、口の中かき回してやりたいんだけど。 「真悠子」って名前呼びながら、その白い首筋にクリーム付けて、一緒に食べてしまいたいんだけど。 なんて、言える筈もなく。 「まあ先輩も、言うほど効率的じゃないな」 「何が?」 「おまえをどんだけ説教しても時間のムダだってこと。って、おっと時間」 たまらなくて、吉本の頭に手をのせたのは、俺の欲が溢れたからで。 びっくりして上目遣いの吉本が一層たまらなくて、くしゃりと頭を撫でた。 「がんばれよ」 さて、仕事しますか。 早く終わらせて、飲みに誘って。 早く気持ちを伝えなきゃ。 俺の妄想が溢れて止まらなくなる前に。
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