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TK=Tear in King’s both hands(北条の家)
新瑞橋(あらたまばし)のマンションにほど近い、住宅街。日当たりのよい、一軒家のリビングで、いくつかのパンフレットと友禅染の反物が数点、並べられている。
「まだ、早いかと思ってたんだけど」
20代の息子を持つ母にしては、すこし年が大きいが、息子を孫に間違われたことはなく、年齢よりも若く明るい雰囲気のもつ女性が、パンフレットに食い入るように見る。
「そんなことないですよ。」
タブレットでさらに、新作を見せようと販売員が操作しながら微笑む。
「今から決めて、仕立てて」
「来年から」
「機会ごとに着ないと」
もったいないですよ、と、くるりと貴夢に最大の笑顔を見せる。
「何を着てもお似合いですから」
「どーん、と派手でもいいし。」
販売のお姉さんが興奮ぎみに、
「モデルもお願いしたいくらいです」
と言うと、大人しく聞いてた光留が、
「モデルはダメ」
一蹴する。
その横で、パンフレットに釘付けの光留の母が、いくつか候補を決めて、
「しーちゃんは、こういうのが合うの?」
と、光留に訊く。
息子の光留が、貴夢のことを室(しつ)と呼ぶので、名前を呼びにくくなり、彼女をしーちゃんと呼ぶ。
「あんまり派手なのは、」
「好きじゃない」
光留がすべて決めていく。
以前は、それでも彼女にどういうのがいいのか訊いたりもしたのだが、お人形のように微笑むだけで、決まらない。
自分を着飾ることに興味がない、のだという。
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