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焦げた匂いがする。
あ…、またやってしまった。
どうして私はこんなに、成長しないんだろうか。
何度も同じことを繰り返してしまう。
真黒になった食パンを見ながら、泣きそうになる。
「焦げたパン」なんて誰が食べるのだろうか。
彼はジャケットを部屋から出てくると、ちらりとテーブルに目を向け、そらした。
「ごめん。急いでるから…」
そう言い残して、玄関の扉が閉まる。
"いってらっしゃい"なんていう間もなく、彼は出ていってしまう。
大丈夫、いつものことだ。
焦げたパンを一口食べ、ゴミ箱に捨てた。
苦い。
借金の肩代わりに結婚を要求されるなんて、漫画の世界だけだと思っていた。
おかげで両親のミカン畑はなんとか売却を免れ、私はこの高層マンションの最上階で、誰もが憧れるような時間を過ごしている、はずだった。
彼が私を見てくれさえしていれば…。
食器洗いを終え、洗濯ものを干す。
真っ白で大きな彼のワイシャツから、少しだけ香水の匂いがした。
いつもつけている香り。
濡れたワイシャツに顔をうずめ、透けたシャツの向こう側の結婚指輪を見つめる。
夫婦とは名ばかり。男女の関係にもなったことがない。
どうして彼は、私をそばに置いておくのだろう。
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