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エィ!
彼女は突然立ち止まると、一大決心で首だけをゆっくりと後ろに向けた。
これまで何の不自由もなく、親から大事に育てられてきた箱入り女子大生にしてみれば、それはかなり勇気ある行動だったと言えよう。
ところが首を後ろに向けたはいいものの、長い黒髪が簾のように垂れ下がり、何だかよく見えない。
すると......
ピュー......
突如往来から吹き込んだ風が簾のように閉じていた前髪をフワッと浮き上がらせる。
そして目の前15センチ。
接吻すら交わせる近距離に突如現れたもの。
それは......
まさか!
まさか!
まさか!
やめて、やめて!
頼むからやめて!
なんと不適な笑いを浮かべる男の顔だった!!!
男の興奮したハァ、ハァというおぞましい吐息が、顔全体に吹き掛かる。
ちょっとよろけただけでも、唇と唇が重なる距離だ。
「キャー!!!」
全身は途端に氷河のごとく凍りつき、自ら立ち上げた悲鳴が聴覚の全てを支配した。
余りの衝撃に体は金縛り状態。助けを求めたくても声が声にならない。
そして男の吐息が自分の前髪を揺らした正にその時だった。
バサッ!
突如両胸が締め付けられるような感触に囚われる。
なっ、何?!
見れば男の太い野蛮な両手が、たわわな二つの胸を物凄い力で鷲掴みにしているではないか!
いっ、痛い! 「いやぁー!!!」
図らずもその衝撃的な男の行為が、蛇に睨まれたカエルの金縛りを解く結果となる。
「止めてよ!」
彼女は半泣きのままそう叫ぶと、力付くでその手を振りほどき、一目散で駆け出していった。
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