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蒼太君のところに女が寄ってくるとしたら、それは蒼太君が男だから。
蒼太君が女だったら、不純な気持ちで寄って来る女も居なかろう。
そうか、解った!
あたしってやっぱ天才!
プロフィールを女にしちゃえばいいんだ!
真千子は目にも止まらぬスピードでプロフィールを男から女へと変更した。
『私が蒼太君にしてあげれる事』から始まった真千子の善意?ある行動は、もはや『暴走』ランプが点灯し、今更『理性』と書かれたタオルを投げ入れたところで止まる訳も無かった。
自称『天才』の行動は更なるステップへと進んでいく。
まだ戻って来ないで......
お願いだからもう少しゆっくりしてて......
しかし男たるもの、体の構造上、用をたすのにさして時間が掛かるものでは無い。
ガシャ!
トイレの扉が開く音だ。
ひえっ......!
まっ、まずい!
帰って来る!
そうだ大変! 名前を変更しなくちゃ。女で蒼太はまずい。
シャー。
トイレの外の洗面台で手を洗っている音が聞こえる。
どうしよう。名前全然出てこない。もう帰ってくる......
慌てふためいて顔を上げると、目の前で高貴なおばさんが皿の上で美味しそうにケーキを食べている。
皿......皿......もう何でもいいや。サラで決まり!
沙羅だ!
えいっ、ピコ! 完了!
ガシャ。
店内の扉が開き、蒼太が勇み足で戻ってくる。
「待たせたな。ったく前のじじいが長くてよぉ。漏れるかと思った」
蒼太は少しイラついた表情を浮かべながら、元の席に着席する。
「間に合って良かったね。もう春も間近。風が気持ちいいわ」
10秒前までは心拍数100を軽く超えていた精神状態において、そんな爽やかな言葉をさらりと言い抜く真千子。
もしかしたら計り知れないスケールを持った人間なのかも知れない。
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