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「さてと......小説もうひとふんばりすっか」
蒼太はそんなデンジャラスな言葉を吐くと、テーブルの上に置かれたスマホを手に取る。
「あっ、大変! あたし今日これからバイトだったんだ。やだぁ、もうこんな時間! 遅刻しちゃう。
あとこれ良かったら読んで。蒼太君が好きなサバイバルミステリーだよ。今話題らしいよ。
蒼太君また電話するから。じゃあね。バイバイ!」
真千子は一冊の文庫本をテーブルの上に残すと、一方的にそう言い放ち、あっという間に蒼太の前から立ち去って行った。
物凄いスピードだ。バイトに熱心なのはいい事だが、本当にそうなのかは本人に聞いてみなければ解らない。
「おいっ、どうした? もう帰んのかよ。何焦ってんだ」
真千子はその質問には答えず、ただ手を振りながら駅の改札へと消えて行った。
嵐のように現れ嵐のように消えていった真千子だった。しかも爆弾を残して。
何なんだ? あんなに慌てて......
やっぱ変わった奴だ。
ゴーン、ゴーン、ゴーン......
真千子が立ち去るのを待っていたかのように、突如アンティークな店の柱時計が夕方5時の到来を知らせ始めた。
ちょっとこジャレたオープンテラスも、5時ともなれば、夕日が差し込み、辺りを真っ赤に染めている。
なんだ......西日が眩しくてスマホの画面が全然見えんじゃないか......仕方ない。俺も帰るとしよう。
蒼太はスマホを手に取ると、サイトのページを開く事無く、そのままジーンズの後ろポケットにしまい込んだ。
蒼太は帰宅を決めると、バッグからヘッドフォンを取り出し耳に掛ける。歩く時のいつものスタイルだ。
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