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カフェテリアに面した路地を歩く事20メートル。ヘッドフォンで流れる音楽があとワンコーラスもすれば学園通りに突き当たる。
ガガガガガ......
自分の耳の中だけに流れ込んでくるスラッシュメタルの激しいザクザク音は、目から頭の中に入り込んでくる激しい小説の展開に見事マッチしていた。
ほうほう......いきなり1章の始めから激しいぞ!
蒼太の目はもはや右手に持つ小説に釘付けだ。
『背後に迫る追っ手が銃の乱射を始め......』
逃げろ、逃げろ!
蒼太の心はもはや小説の中にどっぷりと浸かり、現世の路地を歩く蒼太という個体に魂は宿っていなかった。
『左手に持つ暗殺用のライフルが入ったハードケースが爆風に吹き飛ばされ......』
今度はそんな文章が目に入った途端、リアルに自分が手で持つ紙袋が、頭の中ではライフルのハードケースに変化している。
車で例えるなら、もはや居眠り運転しているのと同じような状態だ。
やがて蒼太は物静かな学園通りに差し掛かる。未だ全く前を見ようはとしない。
『そして突如目の前には大きな壁が! 危ない! ぶつかる!』
小説の中に入り込んだ蒼太は、思わず手に汗を握った。
避けろ! 避けきれるのか?!
そして......
ドカンッ!
「「うわぁ!!!」」
なっ、何なんだ? マジで吹き飛ばされた感触なんだけど!
小説の中で壁に頭ぶつけて何で本当に頭が痛いんだ?
訳が解らん??
蒼太の心は一瞬にして小説の世界から現世へと戻って来た。
いたたたた......
気付けば自分は学園通りの地面に横たわり、頭には大きなコブが出来ているではないか。
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