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女子大生はとうとう自分に声を掛ける事も無く、はたまた視線を送る事すら無く、足早にその場を去って行った。
タッ、タッ、タッ......
タッ、タッ、タッ......
走り去る女子大生のヒール音が静寂した学園通りに響き渡り、やがてその音は学園都市駅の改札の中へと消えて行った。
何か一人だけ取り残されて、妙に虚しい気がするんだけど......
せめて文句の一言でも言ってけよ! 完全無視じゃねえか......
桜吹雪舞う初春の夕べ......
とんでも無い。風に舞っているのは小説の原稿だった。
ありゃりゃ!
見れば200枚に達する小説の紙媒体が、全て紙袋から飛び出し、春一番に乗って見事天空に紙柱を形成しているではないか!
原本は『エブリドリーム』のマイページに全てデータで保管されている訳なので全く支障は無いが、まだサイトで公開していない大事な処女作を、こんな所で公開してしまう訳にはいかない。(くどいようだがすでに公開されている)
蒼太はフラフラになりながらも立ち上がると、飛び上がって宙を舞う200枚を回収に掛かった。
たまたま通り掛かった気の良さそうな中年女性が、一緒になって舞い上がる原稿を回収してくれている。
買い物袋を抱えたエプロン姿の女性だ。どっかいい所の家政婦さんか? 中々品がある。
「はい、大事なものでしょう......あら題名が書いてある。あなた小説家なの?」
その女性は拾った10数枚を蒼太に手渡しながら、興味津々問い掛けた。
「あっ、有り難うございます。小説家だなんて、まだまだ......」
蒼太は上の空でそう答えながら、宙を見渡した。
ダメだ......ほとんど、どっか飛んでっちゃった。
地べたにひざまずき項垂れる蒼太。そんな蒼太の目に突然飛び込んで来た無造作に転がる黒いハードケース。
何だありゃ? 紙回収に必死で全然気付かなかったぞ。
まさか『暗殺用のライフル』?!
そんな訳無い。ライフルは真千子から貰った小説の中での話だ。さすがにもう小説の世界からは幽体離脱している。
蒼太は四つん這いでハードケースの所までやって来ると、恐る恐るその蓋を開けてみた。カギは掛かっていない。
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