183人が本棚に入れています
本棚に追加
一体中には何が入ってるんだ?
蒼太はその物を覆っている赤い布を捲り上げた。
幸いにもハードケースの中に収められていた物はライフルでは無く、オーケストラでよく使われる弦楽器だった。
バイオリン?
さてはさっきの女子大生の忘れ物か......彼女にとっては、さぞかし大事な物であるに違いない。
よくよく見ればバイオリンの裏側にアルファベットの『N』の文字が刻印されている。イニシャルなのであろう。
こんな大事な物を忘れていくなんぞは、よほど取り乱していたに違いない。
それは走り去った時の表情を思い出しても明らかだった。
おや? ケースの内側に小さな箱が付いてるぞ......
蒼太は躊躇する事無くその箱の蓋を開けてみた。
何とその箱の中にあった物は女子大生の学生証だった。
霞女子学院 叶 音(かなえ のん) 20歳。
家の住所まで書かれているではないか。
学生証に貼られている顔写真は、間違いなく先程の女子大生のものだった。
その顔は笑顔に満ち溢れ、先程浮かべていた猟奇的な表情からは想像もつかない。
何をあんなに焦っていたんだろう?......
未だ呆然とした表情のまま地べたにへたり込む如月蒼太。
嵐のように現れ、嵐のように消えて行った謎の女子大生。叶 音。
この偶然の出会いが、二人の運命をこの後大きく変えていくことになろうとは、この時点で一体誰が想像出来ただろうか。
【人生の岐路1】
あなたが蒼太だったら、拾ったバイオリンを交番に届けますか?
それとも、叶 音 に会って手渡ししますか?
最初のコメントを投稿しよう!