第二章 遭遇

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一体中には何が入ってるんだ? 蒼太はその物を覆っている赤い布を捲り上げた。 幸いにもハードケースの中に収められていた物はライフルでは無く、オーケストラでよく使われる弦楽器だった。 バイオリン?  さてはさっきの女子大生の忘れ物か......彼女にとっては、さぞかし大事な物であるに違いない。 よくよく見ればバイオリンの裏側にアルファベットの『N』の文字が刻印されている。イニシャルなのであろう。 こんな大事な物を忘れていくなんぞは、よほど取り乱していたに違いない。 それは走り去った時の表情を思い出しても明らかだった。 おや? ケースの内側に小さな箱が付いてるぞ...... 蒼太は躊躇する事無くその箱の蓋を開けてみた。 何とその箱の中にあった物は女子大生の学生証だった。 霞女子学院 叶 音(かなえ のん) 20歳。 家の住所まで書かれているではないか。 学生証に貼られている顔写真は、間違いなく先程の女子大生のものだった。 その顔は笑顔に満ち溢れ、先程浮かべていた猟奇的な表情からは想像もつかない。 何をあんなに焦っていたんだろう?...... 未だ呆然とした表情のまま地べたにへたり込む如月蒼太。 嵐のように現れ、嵐のように消えて行った謎の女子大生。叶 音。 この偶然の出会いが、二人の運命をこの後大きく変えていくことになろうとは、この時点で一体誰が想像出来ただろうか。 【人生の岐路1】 あなたが蒼太だったら、拾ったバイオリンを交番に届けますか?  それとも、叶 音 に会って手渡ししますか?
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