182人が本棚に入れています
本棚に追加
/472ページ
それは神戸の異人館を彷彿させるようなクラシカルな洋間だった。
天井から吊り下げられたシャンデリアとも言える照明の灯りは消され、身の丈程度の笠を被ったポール照明だけがオレンジ色の淡い光を発している。
そんな部屋の中、虚ろな表情を浮かべて鏡の前に立つ叶 音(かなえ ノン)
セーターを脱ぎ、ブラウスのボタンを外し、純白の下着をたくし上げる。
鏡に写されたノンの二つの胸には、合計10箇所にも及ぶ指の跡がくっきりと残っていた。所々皮膚が紫色に変色しているのは、内出血している証だ。
酷い......
痛いわけだ......
余りに痛々しい自分の姿を目の当たりにし、愕然とするノン。
あの忌々しい出来事から間もなく2時間が経過しようとしているが、心に突き刺さった『屈辱』という名の矢は未だ奥深くに刺さったまま。暫く抜ける事は無かろう。
胸に出来た邪悪な指の跡は、あの男の呪いなのか、はたまた自分の事を忘れさせまいとするあの男の執念の結晶なのか......
いずれにせよ早く消える事を祈るばかりだ。
はぁ......
10年分の溜め息が一気に出た感触だ。
あれ......ストッキング破れてる。しかも血が流れた跡もある。
全然気付かなかった。あたしこんな格好で電車乗ってたんだ。恥ずかしい......
最初のコメントを投稿しよう!