第三章 薔薇とバイオリン

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私って何でこんなにビビリなんだろう...... いい加減自分がイヤになる...... 気持ちを抑え切れずに、思わず目から涙がこぼれ落ちたその時だった。 トントン。  静寂に包まれたアンティーク調の部屋に、扉をノックする音が響き渡る。 何かしら...... 泣いている姿など誰にも見せる訳にはいかなかった。 自分を溺愛してくれている父は、今心臓病を患い家で静養している。医者からはストレスを掛けない事が最大の妙薬と言われていた。 自分は一人っ子。そして母はもういない。もし父に何かあったら私は全ての家族を失い、一人ぼっちになってしまう。 これまで親戚とは特に目立った親交は無かった。 ところが、父が心臓病を患った途端、どこで噂を嗅ぎ付けたかは知らないが、今まで見た事も無いような親戚が突然家に現れるようになった。 そういった人達は自分を見付けると、決まり文句のように「あらノンちゃん久しぶり。ちょっと見ないうちに凄い美人になったわね」などとおべっかを使う。 私を誉めれば父が喜ぶ事を皆熟知した上での計画的発言と言ってもよい。 父曰く「あいつらは我が家の財産をつけ狙うハイエナだ」などと強く罵るが、自分にとっては家の財産などには全く興味はなく、むしろ愛する父こそが財産そのものだった。
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