第三章 薔薇とバイオリン

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「ハナさん。今行くから待ってて貰って」 ノンは慌てふためきながら、手短に要件を伝えた。 「畏まりました」 トントントン...... ゆっくりと階段を下りていくハナの足音が聞こえてくる。 どうしよう......何かお詫びにお渡し出来るような物は無いかしら。 突然の来訪者は、ただ善意の気持ちで私のバイオリンを届けに来てくれたに違いない。だからと言って、お礼の言葉を伝えるだけでは自分の気持ちが収まらない。 ノンは焦りの表情を浮かべながら、広い部屋内を見渡した。 何か無いかしら...... 困ったなぁ...... あっ、これがいい...... 机の上に置かれた数本の赤いバラ。スタンドの灯りがスポットライトの役目を果たし、花瓶と共に、あたかも美術作品のようにも見える。 今朝方、ハナが生けてくれたものだ。 男の人が花なんか貰っても嬉しくないかな? でも感謝の気持ちは伝わると思う...... ノンは花瓶からバラの花を数本掴み出すと、茎の部分に湿らせたティッシュを巻き付け、輪ゴムで結んだ。 別にお祝いじゃないからリボンじゃ変よね...... そうだ、ハンカチで巻こう。 ノンはイニシャル『N』の文字が刺繍されたいつも愛用している薄ピンクのハンカチを上から巻き付けた。 よしっ、これでOK! さぁ、行こう。待たせては申し訳ない。 ノンはハナの後を追うようにして、階段を駆け下りて行った。 トントントン...... トントントン......
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