第三章 薔薇とバイオリン

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   ※  ※  ※ うう......寒い。3月に入ったからと言ってもまだ風が冷たいや。 忘れ物を届けに来たっていう大義名分はあるにしても、いきなりこんな時間に現れたらさすがに迷惑かも知れんな?......しかも相手は年頃の女だ。 正直、「落ちてましたよ」と言って交番に届ければ済んだ話なのかも知れない。 勿論それも考えたけど...... どうしても気になる。あの時の恐怖に怯えた猟奇的な表情が...... こいつこのまま死んじゃうんじゃないか? あの時は本当にそう思った位だ。 一度気になってしまうと、もうどうにもならない。 この目で確かめたかったんだ......あのノンなる女子大生が、学生証の写真のような笑顔を取り戻している事を。 ここまでやって来て引き返すのもバカだしな...... 丘の上の大きな洋館の前で、一人押し問答を繰り返す蒼太。 よしっ。......気合いを入れ直すと、うつむき加減の顔を上にあげた。 門柱には『叶 秀夫・音・ポンチョ』と書かれた表札が掲げられている。 ポンチョ? なんだそりゃ? 外人か? まぁどうでもいいや...... 時刻は夜の7時半を回っていた。今頃夕飯でも食ってる頃かも。 まぁ、折角重い荷物持ってやって来たんだ。訪問するだけ訪問してみよう。断られたらまた明日明るい時に来ればいい...... 蒼太は寒さでかじかんた右手をダッフルコートのポケットから出すと、躊躇無くインターホンのボタンを押した。 えいっ! ピンポーン...... インターホンは僅かな電子音を発すると、突如上部のライトが点灯した。 うわぁ、眩しい! カメラ付きインターホンか! 古めかしい建物だからちょっと油断してた。 「どちら様でしょうか?」 インターホンのスピーカーから聞こえて来た声は、明らかに中年のおばさんだった。 表札に書かれていた『秀夫』でない事は明らかだ。勿論『音』でも無い。と言う事は『ポンチョ』?
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