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うう......寒い。3月に入ったからと言ってもまだ風が冷たいや。
忘れ物を届けに来たっていう大義名分はあるにしても、いきなりこんな時間に現れたらさすがに迷惑かも知れんな?......しかも相手は年頃の女だ。
正直、「落ちてましたよ」と言って交番に届ければ済んだ話なのかも知れない。
勿論それも考えたけど......
どうしても気になる。あの時の恐怖に怯えた猟奇的な表情が......
こいつこのまま死んじゃうんじゃないか? あの時は本当にそう思った位だ。
一度気になってしまうと、もうどうにもならない。
この目で確かめたかったんだ......あのノンなる女子大生が、学生証の写真のような笑顔を取り戻している事を。
ここまでやって来て引き返すのもバカだしな......
丘の上の大きな洋館の前で、一人押し問答を繰り返す蒼太。
よしっ。......気合いを入れ直すと、うつむき加減の顔を上にあげた。
門柱には『叶 秀夫・音・ポンチョ』と書かれた表札が掲げられている。
ポンチョ? なんだそりゃ?
外人か?
まぁどうでもいいや......
時刻は夜の7時半を回っていた。今頃夕飯でも食ってる頃かも。
まぁ、折角重い荷物持ってやって来たんだ。訪問するだけ訪問してみよう。断られたらまた明日明るい時に来ればいい......
蒼太は寒さでかじかんた右手をダッフルコートのポケットから出すと、躊躇無くインターホンのボタンを押した。
えいっ!
ピンポーン......
インターホンは僅かな電子音を発すると、突如上部のライトが点灯した。
うわぁ、眩しい! カメラ付きインターホンか! 古めかしい建物だからちょっと油断してた。
「どちら様でしょうか?」
インターホンのスピーカーから聞こえて来た声は、明らかに中年のおばさんだった。
表札に書かれていた『秀夫』でない事は明らかだ。勿論『音』でも無い。と言う事は『ポンチョ』?
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