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静かだったはずの場所に急に女の子の声が響き渡る。
僕はすっかりびっくりして、声の主を探す。
すると、桜の大木の影に一人の髪の長い女の子がたっていた。
僕と同じくらいだろうか、その子は大きな目をばちばちさせて僕を見ている。
「ずーっと、ここでひとりでいるよね。誰かと待ち合わせ?」
「……別に。」
女の子は、白いワンピースをひらひらさせながら僕に近づいてきた。
「それなら私が素敵な場所に連れてってあげる!あ、私の名前は月子よ。貴方のなまえは?」
「え、あ あの、翼。」
月子と名乗った女の子は僕の返事を待たずに手を引いて歩きだす。
「うん!翼くんね。さ、行こ」
「ま、まって!ぼく、もう帰らなきゃ」
「どうして?帰りたくなかったから、ずっとここにいたんでしょ?」
僕の手を引くその手はとても冷たい。まるでずっと外にいたみたい。長い髪の毛は鼻を掠めてくすぐったかった。
「どうしてぼくがここにいたの、知ってるの?」
「ずーっと見てたから。あなたも私のことを見ていたじゃない。」
??僕は正直訳がわからなくなった。
僕はずっとここに一人だと思っていたのに。
月子に手を引かれながら、ずんずん歩いていく。
さっきまで近くにあったジャングルジムはもう小さくなって、よく見えない。
「ね、ねえどこに行くの!」
「こっちよこっち!貴方を素敵な場所に連れてってあげる!私はそのために来たんだもの」
もしかしたら、とても遠くまで来ているのかもしれない。
でも、公園の道は一本道だからそんなに遠いはずはないのに。
不思議と疲れも感じないし、お腹もすかない。月子の冷たい手だけが僕を繋いでいた。
公園の一本道を抜けると、住宅街に続いている。
月子は相変わらず手を離そうとする様子はなく、僕も普通に月子の手を握り返していた。
…あ、ここのスーパー、ずっと前に母さんが連れていってくれた場所だ。
見ると今まさに母がビニールの袋を下げて歩いているところだった。
でも、少し様子が違う。
そこにいたのはいつも怒っている母さんの姿はなく、父さんと一緒に肩を並べてとても楽しそうに笑っていた。
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