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ひらり ひらり 桜が舞い落ちる ―― 風もないのに、よく落ちる 僕はぼんやりと目の前に立つ桜の木を眺めていた。 茜色の空にうっすらと細い月が浮かんでいる。 月の光は儚く、今にも夕暮れの空に溶けてしまいそうだった。 ――いつまでここにいるつもりだろう 僕はひとひらづつ落ちる薄紅色の欠片を飽きることなく眺めていた。 ボロボロになった布の鞄にも、いつの間にか桜の花が積もっている。 この公園は夕暮れ時になると人は少なく、あるのは大きな桜の木と古びたジャングルジムとくすんだ茶色のベンチだけ。 そこだけ切り取られたかのような静かな空間は、まるで別の世界に来たみたいだ。 ―― ……ここにいると、色んな噂や心ない言葉も全て聞こえなくなる気がする。 僕の家の家族は仲が悪い。 母さんも父さんもいつも喧嘩してばかり。 僕がテストで満点を取っても、学校の話をしても、耳をふさいで僕を見ようとはしない。 父さんはいつも遅くて、帰ってきてもつん、と鼻につくような香水の香りをしていて、僕のかおを見ても「早く寝なさい。お前は悪い子供だ」 「子供はもう寝ろ」しか言わない。 昔読んだ本では、ここみたいな誰もいない場所には妖怪や幽霊がすんでいて、悪い子は連れ去っていってしまうらしい。 ―― 僕も悪い子なら、連れていってくれないのかな。 そんなことを考えているうちにどんどん日は暮れて、さっきまで空に溶けてしまいそうな三日月も徐々に輝きを増してきている。 「……そろそろ、帰らないと」 このくらい暗くなったなら、そろそろ帰らないと、母さんはまた涙を流しながら怒鳴ってくる。 最悪、ぶたれてしまう。 ぶたれるのは痛くていやだけど、母さんの泣き顔は見たくない。 僕は観念してその場を立ち上がった。 すると―― 「ね、そこで何をしてるの?」
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