第一章 どこかでみた光景

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これは、夢? 柔らかな風の音が、耳を掠め、短めの黒髪を揺らしている。 うなじを、何か細かいものがさわさわと撫でているような感触がする。 短い草が、白い半袖シャツから出る腕の裏側を優しくすぐっている。 瞼をゆっくりと開けようとするも、その明るさに目を細める。 太陽の光だった。 右手の甲を目元にかざしながら、ゆっくりと目を開く。 吹きすさぶ風の音と一緒に、 緑の香りが舞い上がり、鼻を掠める。 「ここは、どこだ…?」 その時初めて、自分が芝生の上に仰向けに寝そべっていることに気づいた。 目元にかざしていた手をどかすと、 白みががった青空が、目の前に広がる。 風の音と共に、何か白い小さな粒が一斉に目の前を通り過ぎていく。 雪?こんなに暖かいのに。 目をこらしてみると、何かの花びらのようだった。 「桜か…」 身体を包む草の音が、次第に静まり返っていく。 すると、さっきまで風の流れに身を任せていた花びらが弱々しく身体の上に落ちてきた。 どこから飛んできたのか、 その一枚を指でつまんで空にかざすと、 頭の上から、再び木々の囁きが聞こえてくる。
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