第一章 どこかでみた光景

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春の景色に似つかわしくないような、 野性的なくしゃみを放つ。 何で、こんな時に。 すると、揺らしていた肩が微かに動いた。 小さく呻くような声が聞こえてきたかと思うと、 顔の周りで絡まる薄茶色の長い髪を掌で掻きむしるように、かき分け始めた。 前髪に手を添えて持ち上げるのを手伝ってやると、 そこでようやく表情をうかがい知ることが出来た。 髪と同じ色の長い睫。 ビー玉を埋め込んだような、 透き通った青い瞳。 風貌からして、日本人ではないようだった。 桜を見に来たついでに、ここで寝そべったまま眠りについただけなのかもしれない。 しばらく顔を覗き込んでいると、 視線をこちらに向けられた。 青々とした瞳は、心の奥底まで透かし見るような清らかさが見て取れる。 吸い込まれるように見つめていると、 ふと目を細められた。 「…すごい、くしゃみ」 「…すまない」 「…ひるねしてた、だけなのに…」 話し掛けようとしたが、 それ以上は叶わなかった。 突然吹き上がる風の音とともに無数の桜の花びらが視界を覆い、辺り一面が真っ白になる。 「…やっぱり夢か」 聞き覚えのあるアラーム音が、 耳元で騒がしく鳴り響いている。 呼び鈴。なんと腹立たしい。
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