桜の季節

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 日が傾き、オレンジ色の光が桜を染める。 「もう夕暮れか……。楽しかったな。久々にこんなに笑った気がする。ここへ連れてきてくれてありがとう」  僕は少年の頭を撫でた。 「僕達もとっても楽しかった。またおいでよ」  少年と妖精たちは別れを惜しむように僕を取り囲んだ。 「うん。絶対にまた来るよ」  最高の笑顔で別れを告げる。  手を振る少年と妖精たちに見守られながら僕は目を閉じた。  ひと呼吸おき目を開けると、見慣れた天井がそこにあった。  入所している施設の天井だ。 『ああ、戻ってきちゃった』  ここは長期入院施設。僕は難病によって何年も前から寝たきりの状態なのだ。  病気が判明した時は死にたいって本気で思った。だって……身体が自由に動かなくなるんだよ……。しかも治療法も見つかっていない難病。  まだまだやりたい事だって沢山あった。夢も……。それが実現出来なくなるんだ。夢を叶えるための努力さえ出来なくなる。何で僕が……と神様を恨んだね。  それにとても怖かった。どんな苦しさに襲われるのか。  こんな状況になれば誰だって絶望するだろう。  でも僕は死ぬ勇気も無く、運命をそのまま受け入れることとなった。今考えればあの時死ななくて良かったと思う。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加