学園刑事物語 電光石火 後編

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「印貢先輩は、どこにいたのですか?」 「この家に俺用の部屋がある。藤原が面白がって作ったのさ。ほら、俺は藤原チームではないから、藤原の部屋には入らないし」  藤原の部屋には、常に藤原チームがいるのだ。 「印貢先輩って、藤原先輩の部屋の主的な存在かと思っていましたよ」  どういう存在なのだ。  藤原の姿を探してみると、いつものメンバーに囲まれていた。互いに居場所があるのだと、こうした時には思う。 「後は藤原家に任せて、部活に行くかな」  一旦家に戻って、準備をしなくてはならない。  しかし、このワクチンと抗生物質をホーに出して貰ったが、かなりの額になっているだろう。  俺もホーにタダでくれとは言えない。  俺は廊下に出て、ホーに電話をしてみた。 「ホー、ワクチンと抗生物質の支払いってどうなっているの?幾らなの?」  ホーは眠そうに、欠伸をしていた。 「金額は億だよ。佳親さんは、支払うと言ってきたけど」  佳親でも、そこまでの金はないであろう。 「ホー、請求は俺にしてね。佳親にしないで」  電話の向こうで沈黙があった。俺に支払える額ではないのであろう。 「俺は、弘武と引き換えにワクチンと抗生物質を渡すつもりだったヨ。代金の回収は考えていなかった」 「僅かだけど、俺の貯蓄は全部渡すよ」   ホーは少し笑っていた。 「僅か過ぎるネ」  俺が無言で怒っていると、ホーは次第に楽しそうになってきた。 「代金は、佳親さんから貰うよ。佳親さんが所有する、天神の土地と引き換えにしたノヨ。天神区は狭いでしょ。殆ど寺社の土地だしネ。だから、俺にとっては凄い価値なのヨ」  ホーは不動産を押さえていたが、気に入らなかったらしい。将嗣は、佳親が不動産を四区のために手放したと知り、必ず借りは返すと宣言していた。 「だから、弘武。代金は気にしないヨ」  ちゃんと取引は完了していたのか。しかし、引き換えにした土地とは、どこであったのだろうか。そこにホーは越してくるつもりであった。  どうやって家に帰ろうかと考えていると、征響がタクシーを呼んでいた。 「征響、俺も一緒に帰る」 「いや、俺達、学校に寄るから」  今日は、私立の練習は休みになっていた。隣接する四区で、感染症が蔓延したと聞き、学校全体で部活動を禁止したのだ。今日は、外出禁止になっている。しかし、征響は学校に寄って、打ち合わせをしてから帰るという。
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