学園刑事物語 電光石火 後編

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 でも、会話していると、しきりに征響の話が出てきた。征響は、成績も常にトップクラスで、サッカーの選手でもあり、憧れの的なのだそうだ。 「榎森、征響のファンなのか……」 「……中学からのファンです。久芳先輩を見ていて、印貢君も見つけたので、私、二倍、嬉しいみたいです」  何となく俺はついでの気もする。でも、嘘のない会話が気持ちいい。  会う約束をして電話を切ると、兎の春留(はるる)が俺を見つめていた。 「春留、どうした?」  春留は何か言いたいようだが、黙ってドアまで走っていた。 「サッカーの練習には、今、準備して行くからさ」  急いでジャージに着替えると、春留を抱いて外に出た。  練習に行くと、俺が榎森にOKした事も、榎森の素性も既に話題になっていた。 「どうして、知っているのですか?」 「何で、だろうね」  秋里が笑っているが、俺の携帯電話はやはり盗聴されているのだ。俺がため息をついていると、秋里があれこれ榎森の情報を教えてくれた。  榎森は、幼稚園から私立に通う、いいとこのお嬢様であった。父親は天神二区にある会社の経営者で、母親はマナー教室やフラワーアレジメントを教える講師をしていた。兄は私立の大学部に在籍している。 「……俺では、まずいような」  「久芳もいい家柄だよ」   俺は久芳ではなく、印貢なのだ。 「征響の方が合っている気もしますけど」 「征響には、怖い彼女がいるからさ」  征響の彼女というのも知らなかった。秋里によると、幾度も久芳家には来ているという。征響の彼女は、同じ学校の同じ学年で、生徒会の書記であり、バレーボール部の部長らしい。 「何というのか、強者……」 「美人だけどね、気は強いよね。どことなく、藤原のお母さんに似ている」  それは、かなり強い。でも、征響の彼女という気はする。征響に守られているのではなく、ライバルとして張っている。 「榎森は季子さんのようだよね。守りたいタイプだ」 「そうですね。大切にしたいです」   秋里の彼女は、年上だという。倉吉にも彼女がいて、どうも、俺と同じ高校一年生らしい。  それぞれに、彼女がいて、天神の天狗とは別の世界があった。 「そうか……皆、ちゃんと彼女がいるもんだな」  天神区とな最近まで馴染みが無かったせいで、皆の彼女事情など知らなかった。 「生意気に印貢にも、彼女がいただろう」  俺は、倉吉にサッカーボールをぶつけられていた。
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