学園刑事物語 電光石火 後編

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 翌日、朝練が終わり教室に行くと、いつものように相澤が机で寝ていた。俺は、相澤が寝ていても気にせず話しかける。 「相澤さん。夏休みに俺に英語を教えてください。文法の方をお願いします」  相澤は、少し顔を上げて俺を見た。田舎の少年のような相澤だが、ちゃんと大学を卒業している。 「印貢、海外暮らしがあったからな。言葉は平気でも、文法がダメか……」 「はい。話す分には、聞いてどうにかなりましたけど、文法はダメです」  相澤は再び寝ていた。 「……いいよ。時々、久芳家に行くよ」  相澤も仕事がある。夏休みとは言っていられないのかもしれない。 「では、昼は季子さんのランチにしてください」  相澤は、寝たまま頷いていた。  期末試験も終わり、教室全体がどこか夏休み気分になっていた。今日は授業も少ないので、早く帰れる。携帯電話を見ると、榎森からメールが来ていた。ケーキは好きか、コーヒーは飲むのかなどの、簡単な質問があった。  ケーキは食べはするが、好きというほどではない。コーヒーも飲むが、やはり、ミネラルウォーターが好きであった。  今度は、海はどうかとの質問に、返事をしかけて思い出した。俺は、全身に怪我の跡がある。プールでも海でも、水着になったら、傷跡の説明をしなくてはならない。  しかし、考えてみると、裸にならないとアレはできないのだから同じなのかもしれない。 「海か……」   俺は、泳ぐのは得意な方ではない。泳げる事は泳げるが、藤原の方が上手だった。 「海では泳がないからな……まだ海がいいか」  泳ぐのが得意でないせいなのか、サーフィンなどにも興味が無かった。俺は、冬派なのかもしれない。 「お、彼女との約束か」  相澤は、俺を見て笑っていた。 「はい。俺、こういう、一からの付き合いって初めてかもしれません。友達から付き合うというのが多かったし」  正直に言うと、やや相澤が真面目な顔をした。 「四区出身の彼女ではないのか。では、厄介かもね……」  相澤が心配する、何か事件があるのだろうか。ここの所は平穏で、俺も部活に集中していた。 「まあ、彼女とデートしておいで」  相澤は、再び笑って俺の肩を叩いた。  サッカー部の練習を早めに終わらせると、俺は、榎森と待ち合わせの場所に向かった。一緒に帰る湯沢は、有明と打ち合わせがあるので、今日は別々に帰る予定であった。
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