学園刑事物語 電光石火 後編

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 天神一区の駅に自転車で向かうと、駐輪場にとめた。駅前のポストがあるコンピニの前で待っていると、榎森が走って来た。  制服の短いスカートから、健康そうな足が伸びている。短い髪もあって、元気な女の子というイメージでもあった。  でも榎森は近寄ると、目が大きく顔立ちが整っている美少女であった。 「うわあ、凄いカップルいる!絵だよね」  何人にも写真を撮られてしまった。 「モデル?凄い!かっこいい」  榎森は、ケーキを買うと再び駅に戻った。 「印貢君、自転車でいいよ。私の家に行こう!」  初回で自宅なのか。でも、誘われるままに行ってみると、駅から歩ける高級マンションであった。 「パパが仕事用に使っているマンション。パパの会社はここから近いから。私も学校に近いから、ここに住んでしまっているの」  榎森の自宅は、郊外の一戸建てなのだそうだ。 「夜まで親もいないしね。結構、快適なの」  でも、俺は男なので連れて来てはいけないだろう。部屋に美少女と二人きりでは、俺でも理性がきかない。 「榎森、俺を部屋に入れるのはまずいよ。しかも、誰もいないなんて」  榎森は、皿にケーキを乗せ紅茶を淹れた。俺と榎森は、ソファーに並んで座ると、ケーキを食べだす。隣というのが近いのに、顔が見えないので表情は分からない。 「でも、印貢君とゆっくり話をしたかったし」  話だけでは済まないので、まずいのだ。  高級そうなソファーは、外国製でL字になっていた。俺は立ち上がると、榎森の表情が見える場所に移動した。榎森は、顔を真っ赤にして、しきりにケーキを食べていた。 「私、入院をしていたのです。退院しても、その後、水泳が出来なくなってしまって、結構落ち込んだの。彼氏なんて考えていなくって。印貢君が、初めての彼氏なんです」  こんなに美少女なのに、俺相手に必死になってくれて嬉しい反面、可哀想にもなった。「緊張しなくてもいいよ。俺は、彼女は初めてではないし、素行も悪いし。育ちも悪い。でもその分、多少の事は笑って過ごせるようになったよ。辛かった分は、きっと強くなっている」 「はい!」  榎森は名前を鈴香(すずか)といった。父親がつけた名前で、父親は鞄にいつも鈴を付けていた。  榎森は、水泳部であったのだが、中学時代に病気を患い、以後、激しい運動が禁止されていた。そこで、かなり気落ちしていたところを、征響に励まされたらしい。
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