学園刑事物語 電光石火 後編

9/185
前へ
/185ページ
次へ
 榎森は、皿にケーキを乗せ紅茶を淹れた。俺と榎森は、ソファーに並んで座ると、ケーキを食べだす。隣というのが近いのに、顔が見えないので表情は分からない。 「でも、印貢君とゆっくり話をしたかったし」  話だけでは済まないので、まずいのだ。  高級そうなソファーは、外国製でL字になっていた。俺は立ち上がると、榎森の表情が見える場所に移動した。榎森は、顔を真っ赤にして、しきりにケーキを食べていた。 「私、入院をしていたのです。退院しても、その後、水泳が出来なくなってしまって、結構落ち込んだの。彼氏なんて考えていなくって。印貢君が、初めての彼氏なんです」  こんなに美少女なのに、俺相手に必死になってくれて嬉しい反面、可哀想にもなった。「緊張しなくてもいいよ。俺は、彼女は初めてではないし、素行も悪いし。育ちも悪い。でもその分、多少の事は笑って過ごせるようになったよ。辛かった分は、きっと強くなっている」 「はい!」  榎森は名前を鈴香(すずか)といった。父親がつけた名前で、父親は鞄にいつも鈴を付けていた。  榎森は、水泳部であったのだが、中学時代に病気を患い、以後、激しい運動が禁止されていた。そこで、かなり気落ちしていたところを、征響に励まされたらしい。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加