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榎森は、皿にケーキを乗せ紅茶を淹れた。俺と榎森は、ソファーに並んで座ると、ケーキを食べだす。隣というのが近いのに、顔が見えないので表情は分からない。
「でも、印貢君とゆっくり話をしたかったし」
話だけでは済まないので、まずいのだ。
高級そうなソファーは、外国製でL字になっていた。俺は立ち上がると、榎森の表情が見える場所に移動した。榎森は、顔を真っ赤にして、しきりにケーキを食べていた。
「私、入院をしていたのです。退院しても、その後、水泳が出来なくなってしまって、結構落ち込んだの。彼氏なんて考えていなくって。印貢君が、初めての彼氏なんです」
こんなに美少女なのに、俺相手に必死になってくれて嬉しい反面、可哀想にもなった。「緊張しなくてもいいよ。俺は、彼女は初めてではないし、素行も悪いし。育ちも悪い。でもその分、多少の事は笑って過ごせるようになったよ。辛かった分は、きっと強くなっている」
「はい!」
榎森は名前を鈴香(すずか)といった。父親がつけた名前で、父親は鞄にいつも鈴を付けていた。
榎森は、水泳部であったのだが、中学時代に病気を患い、以後、激しい運動が禁止されていた。そこで、かなり気落ちしていたところを、征響に励まされたらしい。
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