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それはある夜のことでした。
私はいつものように来店なされた御客様に挨拶し、カクテルを作っておりました。
御店の中にはいつもの常連さん方がカウンター席やテーブル席で静かに飲んでおられます。
その日はとある世界の“メキシコ”と呼ばれる国の荒野で営業しておりましてね。
私はグラスを拭いていますと、御店の扉が開く鈴の音がなりましたから。
「いらっしゃいませ。
ようこそ、bar・魔王へ。」
と言いました。
「おや?、貴方はもしかしますと。“チュパカブラ”族の御方ではありませんか?。」
来店なされたのはチュパカブラと言う種族の御客様でした。
「ギギギ?。」
「はい勿論、営業しております。どうぞお好きな席へ。」
すると御客様はゆっくりとカウンター席に着き、何を飲もうか悩んだ御顔をなさっておりました。
「ギィィギ?。」
「トマトジュース、ですか?。えぇ、勿論御座いますとも。」
「ギギ。」
「かしこ参りました。」
チュパカブラと言えば血を飲むと聞き及んでいたのですが。この御客様はどうやらベジタリアンらしく、トマトジュースを御注文なさいました。
「どうぞ。」
「ギギィイ。」
「御客様はここ、メキシコは長いのですか?。」
「ギィ、ギッギギッギ。」
「そうでございますか、もう3年もこちらに御住まいで。」
それから私は、御客様がどの様な経緯でメキシコに移住なされたのか聞くことになりました。
「そうでしたかぁ。“チリ”でそんな事が…。」
「ギィ…。」
どうやらこの御客様は、他の同族が起こした事件で居づらくなり。同時に人探しでメキシコへと流れ着いたそうでした。
「ギギギギ、ギィギィギ。」
「それはさぞ御辛かったでしょう。」
「ギギッギギギ、ギッギギギィ。」
御客様は握った拳をカウンターへ打ち付けると、涙を流されました。
「今はまだ御辛いでしょうが、いつかきっとよい日々が訪れる筈です。
御客様の涙、悔しさ、今宵はどうぞ当店で思う存分御流し下さい。」
「ギィ?。」
「えぇ、構いませんとも。」
私がそう言いますと、御客様は大きな声で再び泣きました。
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