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「お兄さん、あたし…あと10年しか生きられないの……脳の奥深くに悪性腫瘍が棲み付いてるのよ。メスも通れないから薬で成長を遅らせるしか術がないって……」
「と、智美……
親には言うなよ。親は今まで凄く苦労して俺たちを育ててくれたから、悲しいことは言わない方が良いんだ。
言ったら必ず、どんな手段でも治す処を探し回るに決まってる。
だから、死ぬまで病気のことは両親には言うなよ」
兄・溝辺 智はあたしを優しく抱きしめる。
両親は生まれつき耳が聞こえず、共稼ぎで兄とあたしを育ててくれたから凄く尊敬している。
兄は大学を修了し、大手会社に就職して両親を喜ばせていて婚約者もいる。
婚約者は特別支援学校の教諭で、両親のことは大いに理解してくれていて結婚後も両親と同居することも同意してくれている。
「お兄さん、あたし…結婚したくても……
出来ないんだ……」
「出来る!智美の余命を知らせなければ良いんだ!結婚してから、急に脳腫瘍で倒れたことにすれば、わかってくれるはずだ!」
「………」
兄の言うことは、わからなくもないが相手に悪い気がして同意することに躊躇った。
恋もしたい……
結婚もしたい……
子供も産みたい……
でも恋をする勇気がなかった。
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