同期のさくら

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「見ず知らずの方にご迷惑をかけてしまって。それにこの水も」 「それはたまたまここに来る途中のコンビニで買い物をして、くじを引いて貰ったんです。恐縮される程のものではないですよ」  ふふ、と彼の小さな笑いが伝わってくる。遊歩道の外灯が頼りなく照らす中、介抱してくれた男と視線が合うと、彼があっと驚きの声を上げた。 「君は、高畑(こうはた)!?」  急に名前を呼ばれて驚いた。誰だろう、俺を知っているのか? 「ああ、やっぱり高畑だ。十五年振りかな。まさかこんなところで再会するなんて」  薄灯りの下で懐かしそうに目を細める彼の姿は、どう見ても年下の若者にしか見えなかった。 「そうか、今夜はあの頃の同期達と飲んでいたんだね。加藤に山田に井上か。山田は相変わらず?」 「ああ。加藤が幹事をするって言ったのに何故か山田が別の店を予約していてさ。アイツ、その店で俺達が来るのをずっと待っていたんだぜ」 「あはは、あの頃も早とちりが酷くて部長に怒られていたのに、まだ治っていないのか」  俺は隣に座る彼に今夜の同期との飲み会の様子を語っている。どうやら彼は俺達と同じ会社に入社し、そして同じ新人研修を受けた仲間らしい。  楽しげに話をしているが、俺は未だに彼の名前を思い出せていない。その顔は朧気ながら見覚えがあるような気もしてきたのだが、彼は俺の名前を叫んだあと「懐かしいね、皆は元気?」と勝手に話を進めて、俺は彼が誰なのかを確認する間も与えられずにいた。 「高畑はあの頃付き合っていた彼女とはどうなった? ほら、研修中に告白されて、いい感じだったじゃないか」 「そんなこともあったかな。俺は未だに独身だよ」 「ええっ、あんなにモテていたのに。高畑は家庭も持って良い父親をしていると思ったよ」 「良い親父なら、こんな時間に酔っ払ってゲロなんか吐かねえって。そうだ、えっと、お前は?」  名前を思い出せないから喉につっかえた感じで話を振った。でも彼はそれに気がついていないようで、
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