錆色

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(たちばな)美愛(みあ)はタタタタタと小気味よいキータッチ音をさせて、本日の事務仕事を片付けている。 忙しいにも程がある、と嘆息しそうになるのを寸でのところで堪えた。 時計は既に二十一時を回っているのに、まだ予定分が終わっていない。 それもこれも、年度末であること。そして、なにより、突然の異動を言い渡されたせいである。 就職以来、経理課に所属していたわけだが、二週間後に営業一課へ営業事務として異動が決まったのだ。 後任に引き継ぎをしなくてはいけないし、営業課での引き継ぎもあると聞いている。 それでなくとも、年度末は忙しいというのに。 ペラッと紙を捲ったと同時に、くうっと小さな腹の虫が鳴いた。 昼食におにぎりを食べたきりだった、と思い出したが、普段から夕飯は食べたり食べなかったりだ。 今日に限ったことではないか、と無視することにした。
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