東雲色

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いくつかあるベンチの、一番奥まったところに美愛は腰を下ろし、心臓が痛いほど乱れた呼吸を整えるために、深呼吸を繰り返した。 「痛い」 痛いのは、心臓なのか、心なのか、どちらだろう。 ベンチに座り、両手で身体を抱き締めるように小さくなっていた美愛に、突然影が差した。 「速いな、足」 「え?」 俯いていた美愛の足元に見えたのは、飴色の光沢のある革靴。 (どうして……) 酷いことを言って逃げてきたのに、言われた本人がなぜ追いかけてくるんだ、と理不尽だと分かりながらも怒りの感情が芽生える。 「美愛」 そんな優しい声で、大嫌いな名前を呼んで欲しくない。 ちっとも嬉しくないはずなのに、美愛は目の奥が熱くなるのを感じ、狼狽した。
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