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安岡は目をはらしていた。 もう寝間着となっていた。ださい格好。モコモコの部屋着とかじゃないんだな。 そこは予想通り。 「何。どうしたの」 門のところで寒そうにしている安岡。 「これ、やるよ」 「……あっ、ちょっ、これ!」 安岡は目を見開いた。 父の店のチョコは高いので高校生が滅多に買わない代物だ。 OLとかが買うものだ。 目に輝きが戻った。 「チョコは疲れも取れるんだろ。砂糖もそんなに入ってないって。良かったな。食え」 「ありがとう。でも、チョコはしばらく食べないって決めたから」 「俺も食うからお前も食え。今、開けろ!!」 それでも、食べようとしない安岡の手からかわいい包装を開けてぶあつい箱を開ける。 宝石のように並んだチョコ。 俺は一粒口に放り込んだ。 苦いけど甘い。 まるで、今までの自分を許してくれるような、何かがほどけるような気がした。 安岡も許されてほしい。 何かから。 俺はチョコを無理やり安岡の口にねじ込んだ。 柔かい唇に指が当たった。 安岡は驚いた顔をしていた。俺がこんなに必死なところを見たことがないからだろう。 しばらく無言でチョコを食べる。 安岡はもう一粒食べた。 そして、また一粒。 「なにこれ。めちゃうまい」 「そうだな」 「泣きそう」 「俺も」 「泣いていい?」 「ご自由に」 安岡は大粒の涙を流しだした。ぽろぽろと流れる涙は頬からこぼれ落ちる。 仕方ないことって結構たくさんあるけど、チョコひとつで変わるもんだな。 効能でかすぎだよな。 なんだよ、食べずに来たけど馬鹿みたいじゃないか。 うまいな、チョコ。 甘いな、溶けるな。 ありがとうな、安岡。 お前の言うとおり、チョコはすごいみたいだ。
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