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有名パティシエである父は、いつも甘い香りをさせていた。 滅多に家に帰ってくることはなく、店舗二階で寝泊まりしてお菓子―チョコレート、を作り続ける毎日であった。父の店はチョコレート専門店。 家のことはほうったらかし。 結局、帰ってこない人を待つより解放された方がすっきりすると思った母は、家を出た。 俺は母に引き取られた。 それから、母は口癖のように『私の勝手でお父さんと別れちゃってごめんね』と謝ってきた。 仕方がないことなのに謝る母が嫌いだ。 そんなことを言わせる父も嫌いで、原因となったチョコも大嫌いとなった。 離婚してから母は、家事と仕事にずっと追われる日々。まるで女優さんみたいと言われていた母は一気に老け込んだ。 お菓子なんか食べる暇もなく、お菓子を買うお金もなかった。 俺たちは生きることに精いっぱいだった。 チョコが大嫌いとなった。
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