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翌日、安岡はマスクをして登校してきた。
なんだ、風邪か。
俺はなんとなく安心して安岡に軽い調子で尋ねた。
「で。ハッピーバレンタイン?」
「……」
安岡はちら、と俺をみただけで自席について俯いて眠ってしまった。
予鈴がなって一限目が始まる。
なんだよ。
結局、その日は聞けず仕舞いだった。
俺はなんとく安岡の落ち込み具合が気に食わず、携帯から連絡してみた。
電話をかける。
安岡はほどなくして出た。
声が枯れている。
「失恋に風邪とは、ひでーな」
「風邪ひいてないよ」
「声枯れてるけど」
「泣いてた」
俺は安岡でも泣くのかとぼんやり思った。言葉が出ない。
「先輩がさ。チョコ渡してありがとう、気持ちだけもらっとくわって言ったの。でもお前のこと女子に見られない、ごめんなって」
「ほー……」
もっと気の利いたセリフが出てこないのか俺。
「最後に、私の顔をみて『ニキビひどくね?』って言ったの」
「…………」
「そしたらね、私急に恥ずかしくなったの。今までこの顔でよくみんなの前に出られてたなって。チョコが悪いんだよ。常美の言うとおりだよ……」
泣く安岡。嗚咽はとまらない。
俺はずっと黙って聞いていた。
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